グラフィックデザイナー Ian Lynam(イエン・ライナム)

このメタリックインクジェットプリンターは、ディテール表現のみならず、新たなパッションを加えてくれて高い想像力を引き出してくれる、そんな驚きの連続なんだ!

プロフィール

#

グラフィックデザイナー、ライター、クリエイティブディレクター。
初めての来日は「バンドのライブの為」という口実のもと実現。
日本の様々な文化に触れる事で大きな衝撃を受け、その後何度も来日する事に。
日本で仕事を探している時、日本のテレビCMのデザインに携わる機会に恵まれる。既にロサンゼルスを拠点にデザイナーとして顧客を持っていた為、「どこへ行っても仕事は出来る!」という確信の下、拠点を日本に移すという形で2005年に再び来日。同年日本を拠点にして本格活動開始。

日本での活動に至った経緯を教えてください。

#

13年前、ノイズ系バンドのメンバーとして初めての来日を果たしました。当時、ヤマタカEYE(※1)さんや大竹 伸朗(※2)さんの映像パフォーマンスに大きく魅了され、衝撃を受けた事により日本への関心がさらに高まりました。何度も来日しているうちに知り合いが増え、友達もでき、その友達のつてでテレビCMの仕事をさせてもらえる事になりました。当時、私は既にロサンゼルスでデザイナーとして仕事をし、それなりの数の顧客にも恵まれていました。テレビCMの仕事をきっかけに日本での仕事の道が開けてきた事により世界中どこでも仕事は出来るのではないかと確信し、日本に生活拠点を移す事で日本のアートや文化をもっと深く知る事ができると思い移住を決めました。

※1 ヤマタカEYE:やまたかあい、1964年生まれの日本のミュージシャン。山塚 アイからヤマンタカEYE、ヤマタカEYEに名前を変更。1983年にノイズバンド、ハナタラシを結成。以後、大阪を拠点に、ボアダムスをはじめとする様々なバンド、ユニットを結成し、1990年からはアメリカでも活動する。イラストレーターとしても活動。 ※2 大竹伸朗:おおたけ しんろう、1955年生まれの日本の現代芸術家。ヤマタカEYEとパフォーマンスユニット「パズル・パンクス」を結成する。また、ヤマタカEYEとアートブックを出版している。

自分の作品全般に渡り、どのような特徴があり、どのような魅力を持つと考えていますか?
また、普段お作りになる作品についてどんなこだわりを持っていますか?

#

特徴として、作品を作るにあたって今まで続けている事は、たぶん作品の複雑さとそれがちゃんと伝わるようにその詳細にこだわる事ではないでしょうか。常に題材を基にアイディアを広げ、作り上げるものひとつひとつを忠実に再現する事に重きをおいています。また同時に、作品を作る基本はグラフィックデザインの歴史上で徐々に変わりつつある要素の中で最も興味をそそられるもの(ミステリアスであったり、変なものであったり、面白いものであったり、予想外のもの)をいかに新しいものに生まれ変わらせるかという歴史を用いて現代に蘇らせるという事。そしてそれらの新しい試みでまた新しい作品に影響を与えたいと思っています。

私がグラフィックデザインをする上で支える3つの柱があります。1つ目は、グラフィックデザイナー、2つ目にライター/著者、そして3つ目がグラフィックデザインの講師であることです。私は「クリティカルプラクティス」という方法論を強く信じています。クリティカルプラクティスとは、総合的な知識及び経験値です。例えば、グラフィックデザインの仕事をする時にはクライアントの事を考えるのはもちろんの事、技術屋さん(フォントを他の人が使える為にデザインしている方等)の事も考えます。エッセイをアイディアマガジン等の出版物の為に書く時、確実にグラフィックデザインの知識が必要になってきます。そして最後に、グラフィックデザインを教えるという立場においては現在私はテンプル大学日本校でタイポグラフィー(活版術)、モーショングラフィックス(動画)、ウェブデザイン、そしてグラフィックデザインを教えています。視野を広げて多方向から状況を見たり、リサーチをしたり、色々な経験をしてこそ得る感覚や思考を重要だと思っています。

今回の作品のテーマについてお聞かせください。

「細部にこそ注意を払う」という所が基本になっています。私が作品を制作する時、事前にあらゆる思考をまとめるところから始めます。例えば、色使いであったり、どういう出力方法で仕上げるのかなど。今回のメタリックインクの技術は全く新しく開発されたものなので、今までの出力技術にもうひとレベル上を行く描写をしてくれるのか、はたまた全く予想外の展開が待っているのか?等、デザインがどういった形で出力されるのかとても興味をそそられました。

新しいプリンターや、技術が開発される度にデザイナーがいかに関わっていけるかという事に魅了されます。そして、出版や出力担当者がデザイナーの思いをしっかりくんでくれるのか?また、その新しいプリンターがデザインに忠実にイメージを出力してくれるのか?等、思いは止めどなく頭を巡ります。そういう意味で、今回Roland DGの新技術と私のデザインがコラボする上でどういう結果をもたらすかという事がメインテーマだと言えます。

今回作られた作品についてどのようなことを念頭に置かれて作られましたか?
また、その意図とすることは何ですか?

#

このデザインのタイトルは「Space Is The Place」(空間という場所)です。今回の試みは私の思うグラフィックデザインの世界とはという事です。分かりやすく言えば、空間の広がりという形、規則、規定、重力などに捕われない空間への追求などです。私が今回求めたものは、私達が未だかつてまだ発見していない全く新しい空間を表現するという事です。子供の頃の私はSF小説に夢中になり、現実と非現実の境界に打ちのめされるかの様にのめり込んでいきました。特にお気に入りだったのは、「Mimsy Were the Borogroves」というルイス・パジェット(Lewis Padgett: http://en.wikipedia.org/wiki/Mimsy_Were_the_Borogoves)の短編小説です。

未来の可能性という広い視野で見たときに、必然とパジェットの小説や、フラー(R. Buckmister Fuller: http://en.wikipedia.org/wiki/Buckminster_Fuller)の作品に反映されていくのだと思います。フラーは著者であると共に、デザイナーであり、エンジニアでもあるという多面性を持ち、ジオデシックドーム(http://en.wikipedia.org/wiki/Geodesic_dome)という正二十面体で球面を近似し、そこに正三角形に組み合わせた構造材を多数並べることによってくみ上げたドーム状建築物を世に知らしめた人で、とても未来を見据える力を持ち、広い視野でモダニズムの価値を押し上げた偉大な、私が尊敬する人の一人です。

今回、このコラボに携わるにあたり、私は「UTOPIA」(ユートピア)、と「Future Streets」(未来の道)という「理想的な東京の未来」というテーマのもと制作した作品もお持ちしました。制作段階で、メタリックインクがデザインを最高に活かしてくれる作品にする事を念頭に置き、ユートピアはモジュラーシティー(レゴブロックの様な規格ユニットで組み立てた街)をメインに、フューチャーストリートは1種類のロボット的な生息物をメインにデザインを制作しました。

ご自分の印刷された作品を見てどのような印象を持ちましたか?
特にメタリックの質感は普通の箔押しの特殊印刷とはことなる質感だと思いますが。

#

凄いですね!本当に素晴しい!今回Rolandの皆さんは想像を超えた結果をもたらしたと思います。こんなに目を見張るほど奇麗な印刷物を未だかつて見た事がありません。あえて言葉で表すなら、シルバーパントーンとメタルプリントの間みたいな感じかな。もっと細かく言うと、細部の表現が素晴らしいのと、特にエッジ部分がとてもキレイですね!この技術は確実に新しい「美しさ」のレベルを引き上げるものとなると思います。

この新しいRoland DGのプリンターの凄さは、しっかり忠実にクリエーターの意図をくんでくれるところですね。例えば、色味。パソコン画面上と出力したものは色味が違う事が多く起こるので、データを作った環境と同じ色味で出力されるのは最大の魅力です。

制作を進めるなかで、どのタイミングで印刷方法を確定していくのでしょうか?
どんな時にメタリックインクジェットを選びますか?

今まで大体20種類程のデザインを特殊インクでオフセット印刷した事があります。中でも鮮明に思い浮かぶのは、数年前に制作したシルバーラメのパウダーを用いたデザインです。そのパウダーは通常、主に漆黒と共にスクリーンプリントで用いる手法です。もし当時にRoland DGのプリンターがあったなら、同じ様なものがオンデマンド出力で出来たんじゃないかな、と思います。

メタリックプリントや、その他特殊な出力をするか否かは、最初の段階で最終完成図を頭の中に描くのでそこで決まると思います。だから、一番最初にメタリックプリンターを使うかどうかを決めるかな。あとは、クライアントの予算もあるので、予算以内で抑えるという事を考慮しなくてはいけない事を考えると、そこもメタリック出力をするかどうか重要な判断ポイントになると思います。

この経験はメタリックインクがどんな効果を生むかを見る事ができたので、クライアントが新しい技術に興味を示す限り使っていきたいと思います。

色使いは海外と日本では異なりますか?また、色使いで注目するところはありますか?
メタリックインクジェットの発色はどうですか?

#

作品を制作する時、特に色使いにこだわっています。それは、日本独自の色使いに大きく影響されたからです。例えば、六本木のガードレール。キレイな明るい緑が使われていますよね。アメリカではガードレールは大体、シンプルなグレーか白です。アメリカはただコンクリートに合う色を使用してるだけなんですよ。それに比べて日本は日常の何気ない道路にも可能性を見出して気を使ってるところが素晴らしいなと。

海外の目から見る日本とは、日本ではごく当たり前の千代紙の色や模様、そして1960年代の映画のポスターの色使いが有名です。私は粟津潔 (*3)氏の作品を美しいと思い、特に影響を受け、それらから色使いを学びました。

メタリックカラーは通常作品にインパクトを与える目的で使用される傾向にありますが、このプリンターを使う事により、もう一段階上のクオリティを打ち出す事が出来ると思います。

※3 粟津 潔:あわづ きよし、1929年- 2009年。日本のグラフィックデザイナー。1955年の日本宣伝美術会展(日宣美)で日宣美賞受賞。1960年に建築家の有志を募り『メタボリズム』を結成する。つくば万国博覧会・テーマ館アートプロデューサー。

今後、このメタリックインクジェットを活用していかれますか?
また、今後の活動にどのように活用していこうと思いますか?

もちろん!絶対使っていきたいですね。

実は今、個展を開こうと計画していて、各種の作品を展示したいと考えているところです。言うならば、「初期への回想」としてこの10年間の集大成を展示したいと考えています。今のところ大型ポスターを一番目立つ真ん中に飾りたいな、メタリックカラーのポスターが飾れたらすごくいいものになるんじゃないかな、と漠然と考えています。

箔押しの代わりに使用するだけでなく、メタリックインクジェットならではの質感を生かした活用方法など、面白い活用方法が想像できますか?
作品の中で特にどの部分に使用してみたいと思いますか?

大型出力以外に、このメタリックインクジェットプリントは小さいものにもうまく活用していけるんじゃないかな。例えばステッカーとか、プロモーション用の商品とか。特に、名刺がこのプリンターで出力できたらすごく効果的じゃないかな。ほんの小さな部分でもメタリックカラーを使うだけで他の名刺との差を出す事が出来るし、質の高い物が出来ると思いますよ。

個人を表現するのに名刺にちょっとだけメタリックカラーを加えるだけで全然違うものに生まれ変わる。
それって本当に凄い事だと思います。この手法はまだまだ初期段階だと思いますが、より小さいテクニックで効果的に見せられるんじゃないでしょうか。

デザイナーやクリエーターに向けたコメントをお願いします。

#

一言で言えば、おすすめです。少なくとも一度はこの素晴らしいメタリックインクジェットの行程を自身で体験してもらいたいですね。Rolandのシステムが他と比べて優れているのは、画面上でプレビューした時に出力の状態と極めて近い色で確認できることで、これはデザインする上で大変役立ちます。

Roland DGのプリンターがいかに忠実に色味を表現してくれるか、はっきりと引かれた線の美しさ、細部への鮮明な出力には驚きです。そして、出力できる色の多さに更に驚かされます。

先程も言いましたが、デザイナーとして、画面上と同じイメージの出力が出来る事が最大の魅力だと思います。そして、このRoland DGとのコラボは今年一番楽しみながら出来た企画でした。そしてこれは多くを物語ってると思います。

今後の活動について簡単にお聞かせください。

今月、中国で行われる『ASIA PACIFIC DESIGN AWARD』の日本代表審査員を任命されたので、それに参加します。また、先程お伝えした通り、初めての個展の企画が進行しています。「The night of typography」という内容で概要だけが決まっている。イベントタイトルは『Better letter』と言って、日本人・アメリカ人含めて5名のデザイナーがデザインしたタイポグラフの世界初の国際タイポ展です。DJも入るし、お酒も出すので楽しいと思いますよ。

(取材日:2010年 7月 21日)

Page Top